02米の特性米の調理特性

米を好ましい食味の飯にするためには、米の調理特性をふまえて炊飯することが必要です。われわれ日本人は、日常的にうるち米(水分約15%)に水を加えて加熱し、水分約60~65%の飯にしており、この過程を炊飯といいます。日本の日常的な炊飯方法では、加熱前に必要十分な水を加えて加熱し、加熱終了時に余分な水がなくなる炊き干し法が用いられています。加熱中に水を吸って膨潤し、含有するでんぷんが十分糊化した飯は、食味が良く消化吸収しやすい状態です。
炊飯には、計量・洗米・加水・浸漬・加熱の各所に要点があります。

計 量

米を秤量する方法は計量に多少時間を要しますが、再現性の高い炊飯が可能です。一方、カップで計量する方法は簡便・迅速ですが、注意が必要です。家庭用電気炊飯器による炊飯は、付属の1合カップ(180mL)で米を計量し、その合数に応じた内釜の水位線(目盛り)まで水を加えることで、食味の良い飯になります。しかし、米を過不足なく「すりきり一杯」で計量することが前提条件です。調理用計量カップ(200mL)では代替できないため、誤使用に注意しましょう。
また、カップによる容積での計量の場合、無洗米は米粒表面のぬかが除去されているため、同容積の精白米より若干多く入ることから、無洗米専用の水位線がついています。米の計量をする場合、使用する米と計量カップには図表1のような違いがあり※1、適切に計量することが大切です。

図表1 米の容積と重さ(質量)※1

1合(180mL) 200mL
精白米 150g 170g
無洗米 160g 180g

洗 米

精米後の米粒表面には完全に取り切れていないぬかが、わずかに残っており、通常は洗米によってそうしたぬかを取り除きます。精米技術は進歩を続け、近年の精白米にはゴミや異物はほとんどなく、ぬかの残存も非常に少なくなりました。そのため、近年では従来行われてきた米粒をこすりあわせる「研ぐ方法」よりも、たっぷりの水の中で手早くかき混ぜながら水を3~4回替える「洗う方法」が望ましいとされています。
精白米を「研ぐ方法」と「洗う方法」の両者で比較した結果※2、前者は米粒表面が削られて洗液中に溶出する固形分量が多くなるとともに、米が砕ける割合も増えますが、両者の飯の食味評価(総合的な評価)に有意差は認められませんでした。したがって、洗米方法は飯の食味に大きな影響を及ぼさないとされます。ただ、長期保存して古米化した場合には、研ぐ方法を用いると米粒表面の酸化した脂質などの除去が可能なことから食味の改善が期待できるため※3、状況に応じて選択するのが良いでしょう。
また、無洗米の利用は洗米の手間の省略だけでなく、ビタミンB1などの水溶性ビタミンの流出抑制と洗米液の排出量による環境汚染を抑制する点においても利点があります。

加 水

日本人に好まれる飯のかたさを測定すると、米の重さの2.2倍前後(2.1~2.3倍)に炊き上がった飯が好ましいとされます※4。そのため、加水量は米の吸水量と加熱中の蒸発量の合計量が必要となり、米の重さの1.5倍(米の容積の1.2倍)が基準とされます※4※5。ただし、米の品質(品種や新古など)、炊飯器具の種類、飯のかたさの好みによって加減するのが現状です。
電気炊飯器の場合、付属の1合カップ(180mL)に応じた釜内の水位線まで加水する計量方式のため、簡便・迅速に炊飯できます。米を秤量する方法の場合、精白米は洗米中に10%程度の付着水によって重くなりますが、加水量は付着水込みの値であることに留意しましょう。すなわち、洗米後の精白米に水を加えて釜内の最終的な重さが「米の重さの2.5倍」で適量に相当します。近年の家庭用電気炊飯器は、加熱中の蒸発量が少ない製品が多く、加水量は米の重さの1.3~1.4倍です※5※6。ガス・電気の両者の炊飯を考慮し、加水量を米の重さの1.3~1.5倍とする記載もみられます。
以前は、一般的に収穫直後の新米は胚乳が軟らかいため少なめに加水し、収穫後長時間経過して組織が硬くなっている古米は多めに加水するよう加減をしていました。しかし、米の保存技術が進歩し、米の水分が年間約15~16%に管理されることで、水加減に配慮することも少なくなっています。また、近年の電気炊飯器の97~98%がマイコンを搭載しており、新米度炊き分け機能によって同一加水量でも米に応じた飯の炊き上げが可能になっています※7

浸 漬

米のでんぷんが糊化して組織が軟らかくなるためには、米粒中に水が十分吸水される必要があります。加熱前の予備浸水で十分吸水させないと、米粒表層部の組織のでんぷんが先に糊化し、米粒中心部への水の浸透や熱の伝導が妨げられ、芯のある飯になります※8
米の吸水状態は水温※9や品種等※10に影響されます(図表2、図表3)。水温30℃は5℃より吸水率が高く、短時間で飽和吸水に達します(図表2)。水温30℃以下のうるち米の吸水率は、20~25%程度です。浸漬後30分間は米の吸水が急速に進み、約2時間でほぼ飽和状態になることから、1~2時間の浸漬が適当ですが、この吸水曲線を基に最低30分間、できれば60分間の浸漬が必要※4※5とされます(図表2)。浸漬が長すぎると米粒表層部の組織が崩れやすく、食味低下の一因になります。とくに、夏期のような高い水温で長時間浸漬すると、飯の食味低下※11だけでなく腐敗にも注意が必要です。
近年の電気炊飯器は予備浸水なしで炊飯が可能です※7。マイコン搭載の電気炊飯器はスイッチを入れるとすぐに昇温し、40~50℃の温度帯に15分程度保持して吸水させるプログラムの組み込まれたものが多くなっています。

図表2 米の吸水時間と吸水率※9

米の吸水時間と吸水率

図表3 米の浸漬による吸水率の変化※10

米の浸漬による吸水率の変化

加 熱

飯の食味にもっとも重要な影響を及ぼす加熱過程は、点火して約100℃に達するまでの「温度上昇期」が10分程度、激しく沸騰させる「沸騰期」が5分程度、火力を弱めて100℃を保持しながら加熱を行う「蒸し煮期」が10~15分程度、消火後に一定時間保持する「蒸らし期」が10分程度で構成されます※4(図表4)。この一連の過程を経て、食味の良い飯になります。

図表4 炊飯の加熱過程※4

炊飯の加熱過程

(1)温度上昇期

温度上昇期では、米粒がさらに吸水し、60℃付近になるとでんぷんの糊化が始まります。同時にでんぷん分解酵素の作用によって、飯の甘味であるグルコースが生成されます※12。吸水と糊化が始まるこの温度上昇期は、炊飯量の多少にかかわらず10分程度が適当とされます。この期が短時間の場合、米粒中心に水が十分浸透する前に米粒周囲の糊化が始まり、米粒中心部のでんぷんの糊化が行われずに芯のある飯になります。一方、火力が弱くて10分以上かかると、沸騰に達する前に水が米に吸収され、米粒は動きにくくなります。沸騰による対流が妨げられて鍋内の温度が不均一になり、同時に鍋下層の米が過度に吸水するため飯のかたさに上下差ができます。この温度上昇期は、少量炊飯の場合に短くなりやすく、大量炊飯の場合は昇温に時間がかかって長くなります。前者では火加減調節を、後者では湯を加えて水温調節をしたり、熱湯で「湯炊き」をして適切な時間になるよう調節したりします※4

(2)沸騰期~蒸し煮期

沸騰期は米の吸水とでんぷんの糊化がさらに進行します。残りの水の対流で鍋内の温度が均一化され、高温を保持することで糊化が十分に進み、食味の良い飯になります。
蒸し煮期では、未だでんぷんの糊化は進行中のため、温度を高く保つ必要があります。しかし、液体はほとんど残っていないため、火力を弱くして焦げないようにします。米粒中心部まで完全に糊化させるためには、98℃以上で約20分間加熱する必要があります。そのため、沸騰期と蒸し煮期を合わせた20分間の加熱が特に重要な意味をもちます。

(3)蒸らし期

蒸らし期は、消火後10分程度高温を維持する時間であり、飯粒周辺に付着する遊離水を飯粒内に吸収させます。この期に、飯の水分の分布が均一化されます。
電気炊飯器では自動的に火力調節されるため、スイッチを押すだけで食味の良い飯になりますが、ガスなどで炊飯する場合は、火力を調節しながらできるだけ高温を保つことが必要です。また、電気炊飯器には保温機能が付いており、炊飯後に飯を70℃程度に保つことで、でんぷんの老化を抑制して食味の良い温かい飯が食べられるようになっています。

女子栄養大学 栄養学部 教授 柴田圭子

引用文献

  1. 文部科学省「食品成分表(八訂)」(2020年)
  2. 貝沼やす子、長尾慶子、畑江敬子、島田淳子「洗米方法が食味に与える影響」調理科学23,419-423(1990)
  3. 貝沼やす子『お米とご飯の科学』建帛社pp.39-41(2012)
  4. 山崎清子、島田キミエ、渋川祥子、下村道子、市川朝子、杉山久仁子、米田千恵、大石恭子『NEW 調理と理論 第二版』同文書院pp.80~81(2021)
  5. 吉田惠子、綾部園子『栄養管理と生命科学シリーズ 新版 調理学』理工図書pp.129(2021)
  6. 『日本食品標準成分表2020版(八訂)』(調理方法の概要および重量変化率表)pp.35 文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会報告(2020)
  7. 平田由美子「電気炊飯器の最近の動向について」日本食生活学会誌13,147-155(2002)
  8. 関千恵子、貝沼やす子「米の調理に関する研究(第2報)炊飯条件としての浸水時間)」家政学雑誌33,228-234(1982)
  9. 松元文子、吉松藤子『米の浸水時間と吸水量、三訂調理実験』柴田書店pp.11(1989)
  10. 江原貴子、市川朝子、三ツ村由香里、下村道子「米の品種による炊飯方法と嗜好性の関連」日本調理科学会誌29,298-305(1996)
  11. 深井洋一、岡村 修、塚田清秀「炊飯時の炊飯時間及び水温が米飯の品質に及ぼす影響」日本食品科学工学会誌53,592-595(2006)
  12. 馬橋由佳、大倉哲也、香西みどり「炊飯の昇温履歴が米飯の化学成分に及ぼす影響」日本調理科学会誌40,323-328(2007)